青の奇跡

奈月は過去に右肩を痛めてしまったのだ。

一般的に言われている『爆弾を抱えている』状態なのだ。

それは中学生の頃の地方大会での出来事だった。

奈緒が手を合わせて祈るように見守っていた九回表。

点差は一点と僅かに奈月側の中学がリードしている。

ランナー一塁とされ、なおもピンチは続いている。

夏のじめじめとした、あの暑さが容赦なく奈月の体力を奪い、もう体力はほとんど残っていなかった。

相手は優勝候補とされている強豪校。

しかもバッターは今大会でホームランを量産している柊 良介(ひいらぎ りょうすけ)だ。

奈月は肩を一度ぐるっ回すと、ゆっくりとセットポジションに入った。

そして奈月の指先からボールが放たれたとき、

「うあっ……!!」

奈月が声にならない声を上げて右肩をおさえてその場に座り込んだ。

放たれたボールはキャッチャーのミットに届くことなく手前に落ちた。

重傷だった。