意外な言葉に力の抜けた私の体を引きずるようにして、ランドバーグは衛兵に声が届かない距離まで廊下を引き返した。そして私が彼の手を振り払うと、彼は立ち止まって私と向き合った。

紫の瞳を冷たく光らせ、けれどなぜか非常な興奮を抑えている様子でランドバーグは言った。

「やっぱり来ましたね。私にはわかっていたのです。いや、あなたが奴に入れ込みすぎているのを、皆が不安に思っていた。あなたはいずれ、我々の子孫を残さねばならない身。それ故みなも、あなたのわがままを大目に見てきたと言うのに」

そんなこと、ちゃんとわかっている。

この星に生きる私たち人間の数はもう100人に満たない。しかも子供を作ることができるほど若い個体はたった12人、そのうちの5人が女だ。その中で、まだ結婚しておらず、この先長く子供を作り続けることができるのは私だけ。

だけど、それをなぜ今ここで言う必要があるの?
私は精一杯の怒りと侮蔑を込めて、ランドバーグの青白い顔を睨んだ。

「何が言いたいの? 関係ないでしょ?!」
いかにも見下した様子で彼は言った。
「あなたに奴を助けることが出来るのですか?」

私は口を開き、何か言ってやろうとした。けれど、言葉が出て来なかった。

「姫。ここまであなたがすんなり来れたのは、私がそのように手を回しておいたからです。考えてみてください。私なら奴の命を助けられる」

ランドバーグは宰相の息子、その権力にものを言わせれば、確かにあり得る。私にだって、それぐらいわかる。そして彼が親切でそう言っているのではないことも。
「……条件は?」

彼はニヤリと気味悪く笑った。そして私が息を止めるほど驚いたことに、
「聞き分けのいい子は好きですよ」
と言って私を抱きしめてきたのだ。

懸命に身をもぎ離そうとする私の耳に彼の息がかかる。私は悪寒に身を震わせながら、悪夢のような彼の言葉を聞いた。

「明日、皆の前で、私を夫に選ぶと宣言するのです。本来なら発表は来年ですが、選ぶ権利があなたにあることに変わりはないのですから、別に早まったって何の不都合もない。むしろ皆、喜んで祝福してくれるでしょう」

目の前が真っ暗になった気がした。
ああ、だけど……それでラジールの命が助かるなら……!!