ベッドの中で目を覚ました私は、きっと悪い夢を見ていたのだ、と思った。

小さい頃、悲しい夢を見て泣きながら起きた時と同じ気分だったから。そして、やっぱりその時と同じように、夜がまだずっしりと重く、私の回りにわだかまっていたから。

けれど寝返りを打った私の目に飛び込んで来たのは、枕元の椅子に腰掛けて居眠りをしている、乳母のマーナの姿だった。

私は眉をひそめて考えた。
……おかしいわ。いつもは隣の部屋の、自分のベッドで眠っているはずなのに。

唐突に理解が訪れた。
あれは夢じゃなかった。マーナは気を失って倒れた私を看病していたのだ。看病……、そして、監視。

私はそうっと身を起こすとベッドから滑り降り、靴を履いた。
“ラジールを逃がさなくちゃ……彼が、殺されてしまう”
頭の中にはそれしかなかった。

私は窓から外に出て、中庭をつっきり、回廊の中へ入った。衛兵がどこにいるか知ってるし、罪人が入れられる牢へも、どう行けばいいかわかっている。

私が勉強に飽きると、ラジールがよく城のあちこちを見に連れ出してくれたからだ。

人の数に比べてあまりにも広大な城は、使っていない半分が廃墟と化していて、一人では怖いような場所もあった。けれど、ラジールが一緒だったから怖くなかった。

……何だかもう、遠い昔のことのように思える。

不思議なくらい、牢の前まですんなり行けた。廊下の角からのぞいてみたけれど、通路の両側に続く格子の中はひっそりとして、暗くてよく見えない。通路の中程にある腰掛けに、大柄な衛兵が一人座って監視をしている。

どうしよう……どうやったら、あの衛兵をよそへ行かせられるだろう?

何の考えも浮かばないうちに、突然、肩を叩かれて、びっくりして思わず声を上げそうになった。振り向くと、驚いたことにランドバーグが立っていた。いつものように、バカにしたような笑みを口元に浮かべ、私を見下ろしている。

と思ったら腕を掴まれ、無理矢理、どこかへ連れて行かれそうになった。わけもわからず抵抗しようとすると、ランドバーグが耳元でささやいた。

「騒ぎになって困るのはあなたですよ。ラジールを助けたくないのですか?」