「父様! 父様っ!!」

私が叫びながら広間に入って行くと、集まっていた大臣たちが一斉にこちらを見た。

テーブルを囲んでいる10人ほどの、紫の髪がフワフワと揺れる。まるで紫の雲が中空に漂っているようだ。

中には不機嫌そうに顔をしかめる者もいて、私は少しだけ、ひるんでしまった。

城の中で普段、好き勝手していると思われている私だけれど、さすがに、大人たちが会議をしている真っ最中に乱入するのは初めてだ。

けれど今は、そんなこと気にしていられない。

「おぉ、どうしたイリア? そんなに怒って……可愛い顔が台無しだぞ?」

私が期待していた通り、父はとがめもせずに満面の笑顔で椅子から立ち上がり、私を抱きしめようと手を広げた。衣服についたアクセサリーがジャラジャラと耳障りな音を立てる。

私はわざとその抱擁を避け、父をにらんだ。

「今すぐラジールを自由にして! サージュの精に逃げられたのを彼一人のせいにするなんて、ひどいわ!」

とたんに父の顔が曇るのを見て、不安でいっぱいになる。

「イリアや、あやつのことは放っておくのだ。もっと良い先生をつけてやるから……」

「いやっ!! ラジールでないとダメなの、彼が先生でなくちゃ……」

「勉強なんかしない、ですか? いいでしょう、ならばもう、勉強など必要ない」

冷たい水を浴びせられたような気分で振り向くと、宰相の息子、ランドバーグがあざけりの笑いを浮かべていた。

……この人、嫌い。いつもねっとりした変な目で私を見るんだもの。

ああ、でもくじけてはいけない。私がここでがんばらないと、このままラジールが咎を受けてしまう。

「あらそう。わかったわ。じゃあ何もしなくていいのね私。食事もいらないわ、誰も私の部屋に入って来ないで」

そう言ってくるりと彼らに背を向けて扉の方へと歩きかけた。