でも、その気合いは化粧室を出た途端に消え失せた。


「杏樹」


「──っ…!」



背後からハスキーだけど艶やかな声が私を呼び止め、ビクッと肩を震わせて立ち止まった。


それが誰なのかは振り向く前から分かる。



「……玲……」



ゆっくり振り返ると、化粧室へと続く廊下の少し離れた辺りに、腕を組んで壁に寄りかかっている玲がいた。


そして、何故か身動きが取れないでいる私にゆっくり近付いてくる。


緊張しながらチラリと玲の顔を見上げると…

仮面の奥の瞳からは最初と同じ優しさと温かさを感じて、私は少し肩の力を抜いた。