ふわふわと立ち上がる、真っ白な湯気と、茶色のココア。
無言でただ、ガラスのテーブルに置かれて、目を丸くする。


「それ飲んで、落ち着いたら?」


そう言う彼。
スウェットのズボンを片手で少し上げて、キッチンに戻る。


散らかったリビング。
十分前は綺麗だったんだ。


私が、ムシャクシャして散らかしてしまった。


(また…やっちゃった。)


私はハアーッとタメ息をついて、二人掛けのソファからココアを見る。
ガラスの机が、ココアの熱で、コップのあたりが白くなっていく。


マグカップの取っ手を掴んで、口に運ぶ。
唇の前で一旦止めて、ふぅふぅと、熱を逃がす。


「…あったかい。」


一口飲んだだけで、なんだか落ち着けた。
あばれるほど、何をムシャクシャしてたんだろう。


「ハッピーバレンタイン。」


彼は、私とお揃いのマグカップを持っていた。
中身は多分…ホットココア。


「えっ!?今日って、バレンタインだっけ?
ごめん…チョコ用意してない…。」


私が焦ってオタオタしていると、彼は肩を優しくポン、と叩いた。


「だから、俺からのバレンタインのプレゼント。
…ココアだけど。」


彼はココアをグビッと飲んで、熱かったのか、少し体をビクつかせた。


「うん…ありがと。」


「いいえ。」


彼はそれだけ言って、私のトナリに腰掛ける。


「…散らかして、ゴメンね?」


「いいよ。」


彼は笑った。


ムシャクシャしていた事など、すっかり忘れてしまった。



私の、ホットココアのような…温かい彼。