短編集~The Lovers WITHOUT Love Words~


恵一は大きく息を吸い込む。
これから発する言葉には、通常の空気の量では足りない。

「いいわけ、ないだろ!」

「え、どうして」

雪音の顔が見る見る曇っていき、それが恵一の勢いを削いだ。

「どうしてって」

恵一は答えに困った。
先週まで修道女だった人間に、なんで俺が道徳を教えなければならないのだ。それとも修道女だったからこそ、「そういうこと」が分からないのか?

雪音がうつむく。

「だって、外の世界では恵一にぃしか頼る人がいなくて・・・」

消え入るような声。
本当は、不安でたまらなかったのだと気づいた。

そうであれば、なおさら部屋に入れる訳にはいかない。

恵一は、うつむく雪音の手をつかんだ。


「ちょっと、一緒に来い」