雪音はアハハ!と笑った。
「あのね!クッキー作ってんのは函館だけだから!」
それが昔と同じようで、恵一は安心した。
「何年経っても掃き掃除か。全然昇進しないんだな」
「ここには昇進とかないから!上に立ちたいと思う者は皆に仕えなさいって、あんたも学んだでしょ」
そんな他愛のない会話の後、雪音の視線が恵一の手にした花束に落ちる。
雪音はそれを見て、ふわりと微笑んだ。
「孤児院出てからマメに帰ってくるの、恵一にぃだけだよ」
「まぁ、母親がここにいるからね」
恵一は振り向くと、日の当たる丘の斜面に目をやる。
海を望む芝野原に、白い小さな石碑が無数に並んでいた。



