短編集~The Lovers WITHOUT Love Words~


雪音と呼ばれた修道女は恵一を認識すると、歯列の整った前歯を恥じらいもなくさらして

「恵一にぃ」

と呼んだ。

話すことを考えていなかったわけではないが、久しぶりに会う互いが、自分の知っている互いの「似て非なるもの」のような気がして次の言葉が出てこない。

少し言い淀んだ後、恵一が口を開いた。

「…どうだい、クッキー作りは楽しいか」