短編集~The Lovers WITHOUT Love Words~


丘をまっすぐに登っていく一本道はなかなかの傾斜だ。
晩春の陽気も手伝って、10分も歩けば軽く息が上がった。

振り返ると、さっき降りた駅が小さく眼下に、そしてその先には青く広がる海。
海から吹き付ける風が、熱を帯びた体に心地よい。

視線を戻すと、道の先でしきりに掃き掃除をしている人影が。
黒くて長いワンピースに身を包み、頭には白のベール。
ここに住む大人は皆同じ格好をしているのだが、恵一にはそれが誰なのかすぐに分かった。
その人は、いつもそこで道を掃いているから。

「ユキネ」