短編集~The Lovers WITHOUT Love Words~


「俺が話を断ったというのは、嘘だ」

ひとしきり笑い終わると、惠一はさらりと言ってのける。

「え?」

「あっちが断ってきたんだよ。暗がりで医学事典を読み漁ってたら、さすがに気味が悪かったんだろう。断られるなんて格好悪いから、こっちから断ったと言ったのさ」

惠一が嘘をつくのが上手いことを、和也は知らない訳ではなかった。
生まれてこの方独りで生きなければならなかった彼が、自然に身に着けた生き抜く術なのだろう。

「気にするな。俺は施設にいたかったし、お前は施設を出たかった。互いの利害が一致しただけのことだ」

どちらが嘘かは結局のところ分からないが、和也はだまされることにした。

「へぇ、そうか。あそこにいたかった理由って、何だったのかな」
和也が意味深な目つきで惠一を勘ぐるが、惠一は表情を変えない。