惠一は首をかしげる。
「・・・悪いと思ってるなら、そう呼ぶなよ」
「いや、そこじゃなくてさ。お前・・・」
和也が言い淀む。
「東城家への養子の話、僕に譲ってくれたんだろう?」
確かに、東城家が最初に目を留めたのは惠一の方だった。試験的に家に泊まりに行ったりもしたのに、惠一が申し出を蹴ったために和也に話が回ってきたのだ。
あの時、養子に行ったのが惠一だったら。
今の和也はいないが、今の惠一もいなかっただろう。
名家の御曹司と、身寄りのない子供。
敢えて後者を選んだ惠一が、味わわなければならなかった苦労の数々を、和也は知っていた。
惠一は昔の記憶を辿るようにしばらく黙っていたが、突然笑い出した。
「そんなことを気にしていたのか」



