タイムズを読み尽くしてしまったので、なんとなく空を眺めた。

空港の向こうに広がる空は、もう夕暮れの憂いを帯び始めている。
同じ太陽が沈んでいるはずなのに、ロンドンの夕暮れは日本でいう茜空とは少し違って見える。
空気が違うのだろうか。

当然かもしれない。ここと日本では、「赤」の定義からして違うのだから。

日本の赤が茜空の朱色なら、ロンドンの「赤」は艶のある、それでいてミルクを数滴落としたようにコクのある赤。朱色がジャパニーズ・レッドなら、ロンドンの赤はブリティッシュ・レッドといったところか。
不思議なことにこの赤は、緑の木々にも石造りの道路にも、ロンドン特有のどんよりとした曇り空にもピタリと合う色なのだ。

世界には、無数の色がある。
彼女はそれをその目に、映してきただろうか。

そこまで考えたとき、ようやく待ち人が現れた。