フィレンツェの恋人~L'amore vero~

暖房を最大にして、煌のジャケットをハンガーに掛けながら言うと、


「今、温かい飲み物淹れるから」


煌は暖房前の床に座り毛布にくるまりながら「要らない」と首を振った。


「お腹は? 空いてないの?」


「何も要らない」


何も要らないから、明りを消して、こっちへ来て、と煌が言う。


私は言われた通りに明りを消して、煌のそばへ行った。


煌は毛布を広げ私に入るように言った。


もそもそと毛布に入ると煌は私を背後から抱き締めて、毛布にくるまった。


冬のツンとした匂いと煌の香水の匂いが私を包み込む。


「華穂」


耳に煌のくたびれた声がまとわりついてくる。


「うん」


返事をすると、煌は背後でゴソゴソして「これ」と私の顔の前で右手を開いた。


「……何? 暗くて良く見えない」


開かれた右手の中を見つめて小首を傾げると、煌は窓から差し込む月明かりにそれをかざした。


弱い月光に照らしだされ、透明な輝きを放ったガラスのボトル。


ハートを逆さにしたガラスのボトル容器には、ブラックドレスのイラストと筆記体のフランス語が綴られてある。


「わ……可愛い。これ、フレグランス?」


聞くと、煌は小さな声で「うん」と頷いた。


「ゲランのオーデトワレ」


そして、それを月明かりにかざしたまま言った。


「クリスマスプレゼント。遅くなってごめん」


ボトルは淡い月光を吸収しながら薄いパープルピンク色に煌めき揺れていた。


「これ、何て書いてあるの?」


煌の腕ごとたぐり寄せ、綴られている文字を見つめる。


「暗くて読みづらい。ええと……ラ……」


すると煌はボトルをさらに月明かりにかざし当てて、囁くように言った。