そして陽菜と昭雄はアベのタイムマシンで21世紀に帰る事になった。来た時は狭苦しく感じた同じ造りの操縦室が陽菜には妙にだだっ広く感じられた。たった一つ、席が空いているというだけで。
 時間航行空間を移動している間、アベは妙に饒舌だった。陽菜は心配になって訊いてみた。
「あのさ、それで、あたしたちって記憶を消されちゃうの?だから、そんなにいろいろしゃべっちゃってるわけ?」
 アベは楽しそうに大声で笑いながら答えた。
「ははは。なるほど、昔のSFにはそんな話があったね。だがそれはない。人間の記憶というのはそんなに簡単に消したり操作したり出来る物じゃない。22世紀の科学力を以てしても、そんな事はまだ不可能だよ」
「だったら、あんなにいろいろ教えちゃってよかったの?あたしたちが21世紀に帰ってペラペラばらしちゃったらどうするのよ?」
「別にそうしても構わないよ。21世紀の人間がそんな話を信じるとは思えないからね。なんなら本にして出版してみてもいい。よく出来たSF小説だと思われるのがオチ。過去の時代の人間の時間旅行に関する認識など、その程度のものだという事は分かっているのでね」
「じゃあ、ついでに訊くけどさ。フーちゃんと同じFD症候群の人達はどうなるの?フーちゃんがあんな事件起こしたわけだし」
 するとアベの顔が急に曇った。
「前にも言おうとしたのだが……そもそもFD症候群が遺伝病と言えるのかどうかは、22世紀でも論争になっているのだよ。遺伝子の変異には違いないが、単なるアルビノではないか?そういう説も有力なのだ」
「アルビノ?」
「体の色素が何らかの理由で欠乏して、白い動物が生まれる事は放射能とは関係なく昔からよくあった。白蛇、白鹿、白いカラスなど、いわゆる白子というやつだね。FD症候群も単なる色素の欠乏症であって、健康状態には別に悪影響はない。だから隔離する必要自体が本当にあるのかどうか、人権問題になっているぐらいだ」