「え、ぁ…すみません。大丈夫です」

少年はおどけたように笑って、差し出された少女の手をとった。
少女は少年が手をとったことを確認し、
ぐいっ。っと手前にてを引き寄せる。

少年は少しふらつきながらも立ち上がった。

「あんた、名前は?」

少女は、少年に問う。
再び少年の茶色の目と少女の灰色の目の視線が合わさった。

「風桐 瑠衣(かざぎり るい)です」
「あたしは、紫杏。楓紫杏(かえで しあん)よろしくね」

紫杏と名乗った少女が
瑠衣と名乗った少年に向かって微笑んだ。

「よ、よろしく…お願いしま…す」
「あ・・・そろそろかえんなきゃ
それじゃあ、また学校で。それあたしの通ってる高校の制服でしょ?」

紫杏は腕につけていた時計を見て焦り
早口で言葉をつむいで笑顔でその場を去っていった。

「楓…紫杏さんか…」


きっと、どこにでもあるような単純な出逢い
それでも、瑠衣が初めて人を好きになるには十分すぎたのだと思う。