きみ、ふわり。



 紗恵と過ごす放課後は、俺にとって『至福の時』だった。

 それは大袈裟でもなんでもなく。
 世界が薔薇色に見えるってこういう状態を言うのかも知れないと、少女漫画みたいな発想さえ浮かんだり。


 紗恵はあの日以降、行為を求めるような言葉を口にすることは一度もなかった。

 もう既に諦めたのか、もしかしたら俺の『近いうちに』を信じて、ただひたすら静かに待っているのか、どちらかはわからないけれど、ホッとすると同時に俺は、少しだけ物足りなく感じていた。


 俺の我儘は、複雑でややこしいから性質が悪い。



 その日の放課後は進路指導の柿本に呼ばれて、かなり長い時間説教を食らった。

 今月初めに進路希望調査票を白紙で提出したからだ。
 だってまだ将来のことについて何も考えていないから仕方がない。