きみ、ふわり。



 思わず――


 逃げた。

 咄嗟に踵を返して。



 何の用事かはわからないけど、面倒臭いことは御免だ。
 それが紗恵がらみなら尚更。

 勿体ないことをしたと、未だに後悔している自分がいて、そのせいで今日の思考はどうもいつもの俺じゃない。


 俺は据え膳を食わなかった。
 男の恥、御尤もだ。
 隠滅してしまいたい汚点だ。



「何で逃げるの?
 待ってよ、瀬那くん!
 お願い助けて」

 息を切らしながらも栗重が俺の背中に向かって叫ぶ。