月の骨



 それから、一度深呼吸をして、インターホンを押す。これにもカメラがついていて、僕の顔を捉えていた。


『…どちら様でしょうか?』


 少しだけ間を開けて、スピーカー越しのくぐもった声が聞こえてきた。

 年配の、女性の声。彼に妻はいないから、お手伝いさんだと思う。


「突然すみません。渡辺と申しますが、斎藤さんは御在宅でしょうか。」


 と聞いてみたものの、僕には確信があった。

 この時間、まだ斎藤は自宅にいる。彼が出かけるのは11時近くなってからだ。