「浩貴・・・」
すいません。後ろ振り向くのに恐怖を感じるってなんすか。
「ちょっと用事ー」
「今ちょっと向井くんと背景塗ってて・・・」
と、向井くんの方を振り向くと姿を消している。
なんて奴だ、そうそう逃げるなんて。
もう由梨の中学時代の写真なんてくれてやるかぁ!
「よ・う・じ」
「はい・・・」
YESしか許さない笑顔に負けました。
私はゆっくりと腰を上げると、重い足取りで浩貴のあとをついていく。
これから何が起こるかなんて想像できないし、想像したくない。
周りのにぎやかな雰囲気が、嘘のように感じられる。
なんで浩貴のまわりだけ空気が黒いんだ。
「ねぇ麻友。今一番人が密集してる場所ってどこかな?」
「え・・・」
廊下の真ん中で足を止め、浩貴はそう尋ねてきた。
「体育館は今、役者数人しかいないし・・・廊下じゃないかな?」
ほかのクラスの人の声や、ダンス部や、色々な人たちがいきかい準備をすすめる廊下が、今一番の人口密集地だと思う。
「それがなにか・・・?」
「んーっとね」

