静まっているのに、私の鳴き声が響く。

 
「・・・あのさ、麻友」

「・・・うるさい浮気者」

「・・・・・・ちょっといじわるしたかっただけ」

「はぃ?」


 私は泣くのをピタっとやめて、浩貴の顔を怪訝そうに見つめた。


「だって麻友が・・・あのカフェの滝沢とかいう奴と仲良さげだったから、やかせたいなーって・・・」

「え・・・」

「楠木にコーヒーかけたのはわざと、紙で手ぇ切ってそれ舐めたのは・・・麻友がいるって知ってて・・・」

「な・・・」

 なんて男だ。

 私はコイツの手のひらで転がされていただけだというのか。


 私は絶句していて、言葉も涙も出なかった。


 目の前の男を半殺しにしても、もちろん罰などあたらないだろう。



 むしろ、するべきだとすら思った。


 ・・・けど。


「麻友が、ほかの奴と仲良くするなら、オレもやかせるからな」

「ぐっ・・・」

「それ、分かってて」


 それって、私はどうもできないのでは?


 仲良くしたら嫉妬してウダウダして、コイツにまるめこまれて。


 ・・・悪魔だ。

 でも、その悪魔にゾッコンなのだ。


 どうしよう。


「・・・・・・」

 
 無言で、唇を近づけてくる。


 それに応える気は今はない。