「麻友ちゃん? どうしたの、ボーっとして」

 いつの間にか、目の前には雑巾を持った滝沢さん。


「え、あ・・・なんでもないです」

 ただ、ちょっと昔を思い出してただけ。


 1年ぐらい昔の、私のコイバナだった。


「そう? じゃ、こぼれたとこ拭いといたから。麻友ちゃん、火傷とかしてない?」

「あ、はい。私は平気です」

「そっか、よかった」

「・・・・・・」

 
 やっぱり好きだった。

 そんな実感がわいた。


 でも、過去形。


 今でも滝沢さんは好きだけど、恋愛じゃぁないのだ。



 しいていえば、お兄さんのようで。


 安心する存在。


 
 でも、本当に本当に好きでした。


「じゃ、引き続きごゆっくり」

「はい」


 厨房に向かっていく、エプロンをした後ろ姿をぼんやりと眺めた。


 滝沢健人さん。


 優しかったなぁ、今でも。

 浩貴もこの優しさを見習えばよいのに。


 さて・・・カフェオレも飲み終わったし、もう帰りますか。


 また、ここに通おうかな。

 やみつきになってしまった。


 再び。


 でも、滝沢さんの優しさにはドップリとやみつきにはならないように。