「トイレのとこで、水で手冷やそう」
浩貴はそう言うと、副会長を立たせて一緒にトイレの方へ走っていった。
席に、私はポツンと1人。
いや、もとからこの状況ではあったんだけど。
なんかね。
テーブルには、さっきまでカフェオレが入っていたカップと、ミルクティーのカップと、横倒しになったコーヒーのカップ。
・・・あ、コーヒーこぼれたとこ拭かなくちゃ。
私はナフキンを何枚か取ると、こぼれたコーヒーを拭いた。
いれたてだったから、コーヒーは熱かった。
・・・これが副会長の指にかかって、浩貴が。
あの光景を思い出すとどうしようもなく泣きたくなる。
副会長の指に触れていた浩貴がイヤになってしまう。
嫉妬だ。
バカだ。
「麻友ちゃん?」
「滝沢さん・・・」
振り向くと、茶髪がキレイな滝沢さんがいた。
柔らかい茶髪に似合う、優しい表情をしている。
「あ、コーヒー零れてるね。床にも零れてる。ちょっとオレ雑巾とってくるから」
「あ、ありがとうございます」
この人は、どこまでも優しいな。
高1のあの時から、ずっと優しい。
だから、好きだったんだ・・・。
茶色のエプロンを着こなす姿が、あの茶髪によく似合う明るい笑顔が、笑うと目尻によるしわが、可愛いラテアートが。
全部全部好きで、滝沢さんが大好きだった。

