咲希は顔を歪め、小さく口を開いた。



「意味、分かって言ってますか?駆け落ちって、愛し合っている男女が何らかの理由で・・・・」



言って気付いたのか、言葉を止め、徐々に赤くなる咲希の頬。



だが、斎藤は変わらぬ表情でこう言った。



「俺たち、愛し合っていないのか?」




瞬間、一気に顔面を赤く染めた。




耳までも赤くしている咲希は、怒ったようにそっぽを向いた。



「な、なんでそうなる!?」




「そうか・・・俺はアンタのこと好きなんだが」



真剣な表情を見せる斎藤に咲希は戸惑い、声を震えさせた。




「わ、私は違います!!斎藤さんなんて……」



好きになるはずがない。



わたしが好きになってしまったのは新選組で、離れたくないと思ったのは、居心地が良くなってしまったからで、自分の居場所ではないと感じても、そこにいたいと思ったのは……



咲希の頭がこれでもかというほど高速で回転していく。



「斎藤さんなんて鈍感だし、無表情で何考えてるか分かんないし、突然意味分かんないこと言い出すし……」



言いながら必死に頭の中でもひとつずつ頷く。



そうだ。鈍感なのにすぐに女だって見破って、復讐計画を邪魔してきた。



言葉足らずで何考えているか分からなくて、不安にさせることがたくさんで。



でも、斬り合いの時は一番のピンチに駆けつけてくれて、この人のおかげで死なずにすんで……



何度涙を見られただろうか。


何度涙を拭いてもらっただろうか。


咲希はこの数ヶ月を思い返しながら、「でも、」と続けた。



「でも、実は優しくて、いざという時助けてくれて、いっぱい涙拭いてくれた・・・だから、き・・・嫌いじゃありません・・・・」




咲希の声がオレンジがかった空へとこだまする。



「好きって言ってるようにしか聞こえんのだが・・・」



そして、だんだんと近づく顔に拒むことをせず、そのまま目を閉じた。