****
「すみません・・・・でした」
咲希の弱々しい声が、かろうじて沖田の耳に届いた。
「何で僕に謝るの?」
首から三角巾をぶら下げ、肩に支障のないように固定されている腕が邪魔になり、頭を下げるのも一苦労したにも関わらず、沖田からはそんな返答がよこされた。
池田屋事件から一夜が明け、しんみりとなった屯所の中、咲希は沖田の部屋を尋ねたのだ。
「何も出来ず、結局こんな怪我をして帰ってきてしまって・・・それで・・・・」
まだ言いたいことは沢山あった。
だが、沖田がそれを遮るようにいつもの調子で言った。
「だったら、僕に謝るんじゃなくて、一くんにお礼言ったら?」
「え・・・・?」
「一くんのお陰で、その程度の傷で済んだんでしょ?」
何を悩んでいるのか、咲希の動き、そして呼吸さえも止まる。
それを起動させるかのように、両手を体の少し後ろにつき体重をかける、よく見る沖田の体勢で言った。
「早く行きなー」