自分の中で何かが揺れた。

動いたような気がした。

ソワソワと落ち着かない。


「………夏、だ」

図書館から一歩外に出れば、じわじわと滲む汗。


太陽の熱。

生ぬるい風。

蝉のこえ。

青い空に浮かぶ、ふわふわの雲。


なにかが起こりそうな期待と、どこか、焦りにも似た感覚に戸惑ってしまう。


「………あ、」


信号待ちの一台の車に目を奪われた。

深い艶やかなダークブルーの車は、先生の車とよく似ている。

でも、乗っているのは先生じゃなかった。


「……夏、だからだ」


白いシャツ。

白いソックスと、黒のサンダル。

ゆっくり走る車。

タイトルはわからないけれど、耳にしたことのある洋楽。

ダッシュボードに置かれたおもちゃの車。

ドリンクホルダーの、オレンジジュース。


思い出すのは、あの日のこと。