見覚えのない車が玄関先に停まり、そこから着飾った母が降りてくる。 窓から若い男が覗く。 そんな光景を、何度となく目の当たりにした。 しかし父が帰れば、母は貞淑な妻を完璧に演じて見せた。 真郷は、母を憎悪する反面、哀れにも思った。 母は、母親と言う立場、妻という立場よりも、一人の女という立場を選んだのだ。 それは果たして、罪と言って良いものか。 母は父と居る限り、女としての幸せを得ることはないのだから。