九郎は賢く、手間を掛けて躾をせずとも色んな事を覚えた。
例えば無駄吠えは全くと言って良いほどしないし、トイレも決まった場所にしかしない。
手が掛からなすぎて、真郷の方が驚いたほどだ。
「迎えに来てくれたのか?ありがとな」
真郷は九郎を抱き上げると、家の中へ入った。
相変わらず、静かなものだ。
「ただいま」
声を掛けると、奥の部屋から母が顔を覗かせた。
「真郷……おかえり。遅かったのね」
やんわり微笑む母に、真郷は少し気まずく感じる。
「うん。……村の中、案内してもらってたから」
「そう……」
そう言って視線を外した母に、真郷はあることを思い出した。



