父は、悪くないのだ。 ただ、不器用だっただけで。 東京で事業を展開し、成功させた父は忙しい身だった。それでも必死に、家族を省みてくれた。 父は、父なりに努力していた。 真郷は、そんな父が好きだった。父と過ごす時間が、何よりも愛しかった。 ──だが、母は違っていた。 専業主婦のくせに、真郷が学校から帰宅しても、家を空けていることが多くなった。 母が歩くと、知らない香水の匂いが鼻をついた。