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小夜子と夏哉と別れて、真郷は自宅へ向かっていた。
なんとなく、気だるいような感じがする。
自分も暑さに当てられたのか、と思いながら、重い足を進めていた。
「ウォン!」
家の側まで着くと、犬の鳴き声が聴こえた。
駆け寄ってくる足音、視界に映る白い動物。
「あ、九郎(クロウ)。」
九郎、というのは夏哉が拾ってきた真郷の愛犬である。
まだ仔犬ではあるが、激動の人生で苦労しそうだから、九郎と名付けられた。
それを夏哉に言ったら性格が悪いと批難されたので、以降、真郷は源義経のように勇敢になるように、と理由を変えた。
尻尾を振りながら真郷の足下までやって来る。どうやら迎えに来てくれたようだ。



