視線に気づいた母は、真郷を見て苦笑する。
「そんな所に立って、どうしたの?」
首を傾げる母に、真郷は精一杯気丈に振る舞った。
「母さん、どこか行ってたの?」
さっき、俺の部屋に来なかった?とは、どうしても言い出せなかった。
「ちょっとお参りにね。村に戻って来たから、神様にもご挨拶しないとね」
「お参り……」
「不思議かもしれないけど、夜叉淵村って信仰心が厚いのよ。真郷には、ちょっと難しいかしら」
ただ、真郷は頷くだけだった。
それ以外に、言葉も仕草も見つからなかった。
なんと返せばよいのか。
母はあっさりと肯定してしまったのだ。
あの時間、真郷の部屋に訪れていないことを。



