戸に手を掛けると、自分の手がじんわり汗ばむのを感じた。
「あ……」
母の後ろに、俯いた少年の姿を捉える。
「夏哉くん……?」
呼び掛けると、少年は顔を上げた。
「母さん、後は大丈夫だから」
「そうね。私は母屋に戻ってるわね」
母が長い廊下の先に消えると、奇妙な沈黙が流れた。
「──とりあえず、入ってよ」
真郷に促され、夏哉が部屋に入ると、彼に気付いた仔犬が駆け寄ってきた。
「元気に、なったんだ」
仔犬を抱き上げて、夏哉は嬉しそうに笑った。
それから真郷に向き直ると、頭を下げる。
「どうもありがとうございました。お礼、言いたくて。深見さんが引き取ってくれなかったら、コイツ死んでた」
「いいんだよ、そんなの。……ただ同情しただけなんだ」
「え?」
夏哉が顔を上げると、真郷は寂しそうに眉を下げた。



