いつの間にか、小夜子の視線は前方に見える祠へ注がれていた。
指差す方を見れば、確かに夏哉らしき人影がうずくまっている。
二人は顔を見合わせると、そちらへ駆け寄った。
「ナツ!」
小夜子の声に反応し、夏哉はこちらを見上げた。
「──姉ちゃん」
ずぶ濡れで、唇は僅かに紫色をしている。
小夜子は自分の傘に夏哉を入れると、鞄からスポーツタオルを取り出す。
すると、夏哉の胸元から一匹の仔犬が顔を出した。
泥にまみれていたが、黒いつぶらな瞳が覗いている。
この雨のせいで、かなり衰弱しているようだ。
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