幼い頃の思い出というものは美化されやすい。
要は、怯えているのだ。
窓の外では、田舎の夏にありがちな強い雨が降っている。
木造の校舎は、湿気を吸い上げて独特の臭気を放つ。
そういえば傘を忘れたな、と真郷はまた憂鬱な気分になった。
思い返せば、家を出る際フミ子が傘を持っていくようにと言っていた気もするが。
どちらにしろ、頼れる友人も居ない今、濡れて帰るという選択肢以外は存在しない。
別に傘の一つくらい、東京ならば借りて帰ったくらいでは誰も気づかなかっただろう。
しかし、この小さな村ではそうもいかない。



