村の外部から来た──つまり、よそ者である真郷の父親と出会った彼女は、すぐにこの村で身籠り、真郷を産んですぐに東京へ駆け落ちした。それから、再びこの村に戻ってきた。
だが、なぜ駆け落ちという禁忌を犯した彼女を、こうもあっさり村は受け入れたのだろう。祝福を受けずに生まれたであろう真郷のこともそうだ。
親が権力者だというだけか?もっと他の何かがあるのではないか?
そんな考えがぐるぐると頭の中を巡る。
気が付けば、百合絵の背中が遠くに見えた。握っていた拳が、じっとりと熱を孕んだ。
そういう時こそ、思い出さなくていいようなことを思い出すものだ。
幼いころ、自分を虐待していた父はなぜ頑なに、顔を傷つけることを拒んでいたのか。
〝あんたは私の夏哉じゃない〟ある日を境に豹変した母の怒号は、決まってこうだった。
いつか、父は激怒した真郷に対して異常に怯えていた。彼はまだ、未熟な成長途中の子供に過ぎなかったのに。
あれらは一体なんの意味を持っているのだ?
夏哉の頭の中で、記憶の断片がパズルのように形作られていく。
そしてようやく、夏哉は自分の出生にまつわる〝因果〟にたどり着いたのであった。



