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帰路につく前、夏哉はある場所に立ち寄った。それは、村の資料館だった。家に帰る前に、どうしても知っておかなければならないことがある。
父親の言葉が真実なら、それは知る必要がある。
「オレの本当の親……」
出生記録には、おそらく夏哉の出生に関する真実が記されている。それを見るのは恐ろしくもあるが、同時に父の言葉など戯れ言であったと証明したくもある。
並べられた本の中から、自分の生年月日を探し当てた夏哉は、ごくりと喉を鳴らした。
××年4月2日
【母親】朝霧葉子 【子】夏哉(男)
──あった。確かに指で追った文字の先に、自分と母の名前があった。朝霧葉子は間違いなく、夏哉を育ててくれた母親の名前だった。
ほっと、胸を撫でる。しかし、夏哉は同時に、妙なものを目にした。
その行の下に、あった名前だ。隠されるように上からペンで二重に消されたその一文は、まじまじと見てようやく読み取れる。
××年4月2日
【母親】月岡百合絵 【子】男児一名 死産
──死産。
その言葉に、背筋に冷たいものを感じた。それに妙なのは、月岡百合絵などという女を夏哉は知らないのである。そもそも、この村に月岡という姓が存在しない。
ならば、これは誰なのか。
ふと考えて、まさか、と夏哉の唇が震えた。



