祭の前に行方をくらませ、姿を見せなかった小夜子と夏哉の父親である。てっきり村を出たか、とうにのたれ死んだかと思っていたが、まさかこんな場所で再会するとは。
夏哉は舌打ちをした。そんな息子の悪態に、父親はいつものうすら笑いを見せた。その余裕が薄気味悪く、夏哉はさらに眉を寄せた。
「夏哉ぁ、父さんにその態度はないだろ。久々に会ったのによぉ」
「……よくも姉さんを売っておいて、のうのうとオレの前に現れたな」
夏哉の声は低く、明らかな怒気を孕んでいた。
「へっ……。こりゃ驚いた。まだお前ら〝姉弟ごっこ〟してるのかよ」
「なんのことだ」
「あぁ?なんだ、この村の奴らはつめてぇな。村長あたりが言ったかと思ってたけどな」
「だから!なんの事を言ってるんだ!」
勿体ぶった父親の態度に苛ついた夏哉は、父親の襟ぐりを掴んだ。すると、彼はにやけたまま告げた。
「だーかぁーら。お前と小夜子は姉弟なんかじゃねえんだよ」
父親の言葉に、夏哉は硬直した。わけがわからなくなって真っ白な彼の耳に、父親が囁いた。
「あ・か・の・た・に・ん」
それは、悪魔の囁きだった。
「嘘だ……嘘をいうな!姉さんとオレが──」
〝血ガ繋ガッテ無イ〟ナンテ──……
夏哉は父親の身体を蹴り倒し、地面に叩きつけた。そして馬乗りになると、再び胸ぐらを掴んだ。父親はそれを予想していたように笑った。
「そんなに疑うなら出生記録を見てみな……それにな、お前以外はみんな知ってんだぜ。小夜子もなぁ、お前の姉貴面しながら、全部知ってんだ。ちいせぇ時からな」
「姉さんも……!?」
小夜子の名前が出たことに、夏哉は驚愕した。自分は一度も疑うことなく、姉を慕ってきた。それなのに、小夜子は実の姉弟ではないことを知っていた。
それがもし、事実だとしたら。
明らかな動揺をみせた夏哉に、父親は隙をついて彼の鳩尾を殴った。突然の衝撃に対処できずにその場にうずくまった夏哉を、彼の手から抜け出した父親が笑った。



