償いノ真夏─Lost Child─



既に、この遺体の絶好の隠し場所を、夏哉は知っていた。運ぶのは少し面倒だが、小夜子を守るためなら仕方がない。

その場所なら、けして誰も見つけることはできない。

夏哉は遺体を引き摺った。その跡も、雨が洗い流した。そして、誰にも知られずに目的地へとたどり着いた夏哉は、その奈落へと遺体を沈めた。

「なぁ、あんた。恨むなら、この村を恨んでくれよ……」

夏哉は水面にむかって呟いた。女の亡骸は、やがて暗い水底へと吸い込まれていった。そう、この場所は、村人でもめったに近付かない──夜叉伝説発祥の地、〝鱗沼〟である。

そうして、跡形もなく片づけを終えた夏哉は何食わぬ顔で小夜子のもとへ戻った。今までの現実の出来事から小夜子を遠ざけ、夢だったと錯覚させるために。

小夜子の為ならどんな罪を犯しても構わなかった。
小夜子の為なら、非情になることすら厭わない。

それが狂気と異常性を孕んでいたとしても、夏哉には関係なかった。

たとえ小夜子の目に自分が映っていないとしても。

「くく……ははははっ!」

思わず笑い声を漏らした夏哉を、小夜子が不安げに見上げる。

「ナツ……?」

夏哉は壁に背をつけたまま、その場にしゃがみ込んだ。

「大丈夫……大丈夫だよ姉さん……姉さんはオレが守るから……真郷がいなくたって大丈夫さ
……オレ一人でも……やれる」

歪み、狂った歯車は、確実に二人の平穏な日常を侵していた。そして小夜子はこの現実から目を背けた。夏哉は、その狂気に身を委ねた。