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森の静寂に轟いた銃声に、小夜子は驚いて足を止めた。
「ナツ……っ」
振り返っても、夏哉は追いかけてこなかった。小夜子の足元には、白い蛇が這いずっている。それは彼女の足を這い上がり、太ももを赤い舌で舐めながら、上へ上へと。そうして、彼女の秘部を撫でた。
「嫌ぁ!」
それを払いのけて、小夜子は走った。蛇が怒っているような気がした。
「もう嫌、もう嫌だよ……助けて……はやく助けて、真郷くん……!」
泣きじゃくりながら、小夜子は無我夢中で足を動かした。
そして、ようやく暗い森を抜けた時。
安堵して笑みを浮かべたのも束の間──バス停には、村長とその妻、それから複数の村人が立っていた。
小夜子は膝から崩れ落ちると、その場にへなへなと座り込んだ。
辺りを見回しても、そこに待ち焦がれた真郷の姿は無かった。
絶望する小夜子を見て、村長が不気味に笑う。
「祭りが始まりますぞ、小夜子様」
小夜子は恐怖と悲しみで、身体の震えが止まらなかった。それからハッとして、村長に縋った。
「ナ……お、弟は……弟をどうしたんですか……」
「はて。なんのことでしょう」
「まさか……殺したりなんて……しませんよね……?」
その問いに、村長は鼻を鳴らした。
「殺すも何も、あなたには最初から弟なんて〝いない〟でしょう?」
小夜子はその瞬間、自ら意識を手放した。



