償いノ真夏─Lost Child─




とうとう、八月二十日になった。
夏哉は祭りの準備を手伝う傍ら、ある計画を進めていた。手紙によれば、今日、真郷が小夜子を迎えに来る。バス停まで行けば、バスにさえ乗ってしまえば、小夜子はこの村から逃げ出せる。幸い、バスの運転手は村の外部の人間だ。なにも怪しまれることはない。
それに、村外に祭りの真実が公表されれば、立場が危うくなるのは村のほうだ。

だから、小夜子をどうにかして連れ出すのだ。彼女が無事に逃げた後は、自分はどうなろうと構わない。

夏哉はずっと大切にしていたエアーガンを撫でた。それは、小夜子と真郷と、三人で行った祭りの射的で獲った景品だ。玩具の銃だが、もしもの時は役に立つだろう。

「意外と威力あるんだよな、BB弾て」

ふ、と息を吐く。

「もう一度三人で……行きたかったな」

それはもう叶わない願いだ。この五年間で、色んなものが変わりすぎた。夏哉は目を閉じる。


「夜叉になんか……姉さんを渡すかよ」

一人ごちて、夏哉は立ち上がった。向かうのは小夜子のもとだ。

堀川邸には、禊に使われる座敷牢がある。そこに小夜子がいることは、大人たちが口を滑らせて簡単に教えてくれた。

夕方、若衆の中に紛れ、堀川邸に忍び込む。そして、小夜子が禊を終え、牢から出てくるその時を待った。そこには、小夜子以外には初老の村長の妻だけだ。見張りの目がない今だけが一瞬のチャンスだった。