償いノ真夏─Lost Child─


祭の後に狂った巫女、美しい処女にしか現れない花嫁の印、そして〝忌子〟という呼ばれ方。本来なら、村のために雨乞いの舞を奉納した功労者に対しそのような呼び方はしないのではないだろうか。

夏哉は村の資料館に向かうと、貸出禁止区域へと向かった。古い蔵書たちが並んだそこは、わずかにカビ臭さと、どこか懐かしい匂いがした。普段なら近づくことさえはばかられるが、幸いなことに、今は周囲に人の目はない。

そして、夏哉は一冊の色あせた本を手に取った。表紙には白蛇の絵が描かれ、下に〝夜叉神信仰〟と記されていた。恐る恐るページをめくると、そこには村人なら誰もが知っている夜叉と村娘の昔話が書かれていた。

そして、その次の項目に息をのむ。

「これだ……」

そこにあった記述には、夏哉の知らない、おぞましい真実が書かれていたのだった。

【御夜叉祭】おんやしゃまつり
夜叉様と娘の命日である八月二十日に行う祭事。祭りは五年ごとに行う。夜叉様の怒りを鎮め、雨乞いの儀式をし、花嫁を捧げる。花嫁に選ばれた巫女は舞を奉納する。巫女は、十八歳以上二十歳以下の処女で、オシルシが現れたもの。

【神姦ノ儀】しんかんのぎ
舞の奉納後、巫女は五人の神官たちに操を捧げる。これは、御神木を通じ夜叉様に初夜を捧げることを意味する。神官は肉親を除く成人に限り、村長が任ずる。神官に選ばれたものは面をつけ、儀式が終わるまで言葉を交わしてはならず、祭りの後も正体を明かすことは禁じられる。また、巫女から流れた破瓜の際の純血は、必ず御神木の幹に吸わせること。


──なんということだ。これが御夜叉祭の真実ならば、立派な犯罪ではないか。

そして、ぐっと唇を噛みしめた。……違う。これは犯罪などではない。
すべて合法なのだ。〝この村の中〟では。

この呪われた夜叉淵村では、夜叉様信仰こそが、法そのものなのだ。

それを信じ、実行し続ける村人の姿は、この土地に根付く因習の姿なのだ。