それから間もなくして、村は本格的に祭りの準備に乗り出した。
準備のために村の男衆は村長の堀川邸へと集められ、その中には当然、夏哉の姿もあった。周りの男たちはみな高揚した雰囲気だったが、夏哉はただ一人暗い表情だった。
周囲の話し声が、やたら耳に入ってくる。
「今年の巫女は、朝霧の小夜子様だと。まだ子供と思っていたが、少し見ないうちに美しくなったものだ」
「神官の発表が待ち遠しいもんだ。美奈江様も美しい巫女だったがな……」
「シッ!堀川殿の前でその話は禁句だ。神官どころじゃなくなるぞ」
「あ……ああ。そうだな。だが、あれは実に残念だった。忌子とはいえ、深見のお嬢様のようにはいかんか……」
夏哉は顔を上げた。深見のお嬢様というのは、ほかならぬ真郷の母親のことだ。この村でそう呼ばれるのは、彼女以外あえない。だが、どうして彼らの話題に上がるのだ?それに、気になる言葉もある。
〝忌子〟
いみこ、とは、恐らく前巫女を務めた村長の娘のことだ。そして、真郷の母親もそうなのだ。忌子とは何なのだろうか。ふと、嫌な考えがよぎる。
そして、その想像を裏付けるように、男の口からとんでもない言葉が転がり出た。
「つくづく、この村に生まれた女は不幸だな。美しければなおさらだ。お嬢様のように、生まれついての淫蕩でなければまともに生きてはいけんだろうよ。アレがどのような祭か、この村に生まれた女たちは知らないんだ。自分が〝選ばれるまで〟。だが、選ばれなければ死ぬまで知るこたぁねぇ。哀れなもんだぜ」
夏哉は頭の中が真っ白になるのを、初めて経験した。
そのとんでもない情報に、思考がまともに追いつかない。
どのような祭か、だと?
その瞬間、全身の血の気が引いた。自分の想像が真実ならば、この村は狂っている。そして、狂気に満ちている。
気が付けば走り出していた。ただ、おぞましくて、あの場所には居られなかった。自分が考えていたことよりも、ずっとずっとおぞましいことが、祭りのたびに起こっていたのだ。自分が生まれたこの村では。



