償いノ真夏─Lost Child─


夏哉は小夜子の部屋へ向かうと、小夜子が置いて行ってしまったクマのぬいぐるみを手に取った。それを彼女の机の上に戻してやったところで、とあるものを目にした。それは、赤い表紙の日記帳だった。

他人のプライベートを覗くのは趣味が悪いとわかってはいるのだが、そんなものは好奇心の前では脆いものだ。夏哉は震える手でそのページをめくった。

そこには、小夜子の本心が綴られていた。
真郷への恋心や、オシルシや父親への恐れ、不安、そして、夏哉のこと。
そして、日付はちょうど昨日までで止まっていた。

〝ナツには迷惑をかけてばかり。私がお姉ちゃんなのに、今ではナツがお兄ちゃんみたい。なにもしてあげられなくてごめんね。オシルシが出たことは怖いけど、ナツが守ってくれるから平気。だけど、ナツがいないときは不安になる。ナツと私は違う。私の所為でナツが辛い目にあったらって考えると、それが一番、怖い……〟


涙が止まらなかった。

「馬鹿な姉さん……っ。オレの心配なんか……自分が一番辛かったくせに……!」

はらりと、日記帳から何かが落ちた。それは封筒だった。
そういえば、別れ際に真郷が小夜子に渡していたものに似ている。

夏哉は封筒の中身をあらためた。

予想通り、それは真郷からの手紙だった。驚くべきなのはその内容だ。
この手紙に偽りがなければ、祭りの夜、真郷はこの村へ戻って来る。小夜子の日記には真郷を待ちわびているという内容があったが、これならつじつまが合う。

夏哉の親友であり、この村の影響を受けない真郷なら、小夜子をこの村の呪縛から救い出すことができる。小夜子もそれを望んでいるのだ。

夏哉一人だけならいつでも逃げだせるが、小夜子を連れてではそうもいかない。それならば、このチャンスに賭けるしかない。祭が始まる前に、なんとか小夜子を真郷の元へ連れて行く。
そうしなければ、小夜子は夜叉の花嫁として、一生村の監視下に置かれてしまう。