中の様子を窺おうとしたところで、突然何者かに肩を叩かれた。驚いて大袈裟に身体を震わすと、その相手は小さく声を上げた。
「きゃっ!」
どうやら相手は女性のようだ。もしかして小夜子なのかと淡い期待に振り向くと、そこには見慣れない女が立って居た。見た目から推測するに、真郷と同い年くらいだろうか。
小夜子でなかったことに少しだけがっかりしたが、ようやくまともな村人に会えたのでほっとした。
「すみません、驚かせて……」
「いえ、あたしこそ!」
女は胸の前で両手を振った。
「それで、えぇと……俺に何か?」
真郷の問いかけに、女はじっとこちらを見つめた。
「あの、もしかして、深見真郷くん……じゃない?」
目を丸めた真郷に、女はぱっと表情を明るくした。
「やっぱりそうだ!あたしね、中等部で一緒だったの。〝笠原りな〟よ」
「笠原さん……」
笠原という名前に憶えはなかった。もっとも、あの頃の真郷は朝霧姉弟以外との交流を自ら拒んでいた為、クラスメイトの名前さえ覚えていないのが現実だ。
笠原りなと名乗った女に対しても、さして興味は湧かない。よくよく見れば美しい顔立ちをしていたが、それも小夜子への恋心の前では霞んで見える。
「ねぇ、村長の家に何か用?今日はお祭りだから、村の男衆がみんな集まってるわよ。深見君は行かないの?」
「俺はこの村の人間じゃないから。──えぇと、あのさ、中等部の時に同じクラスだった朝霧小夜子を捜してるんだけど、知らない?」
小夜子の名前を出した途端、笠原の顔つきが変わった。
「またあの人なの……」
「笠原さん?」
その異変に気付いた真郷が声を掛けると、彼女は再び笑顔をつくった。



