「子供はいつか大人になるもの。親がいつまでも子供でどうするんだい」
「親が子どもと一緒に居たいと思うのは当たり前でしょう?」
「真郷だってお前と同じ気持ちだったものを、一緒に暮らせなくなったのはお前が真郷を選ばなかったせいだろう。他人のせいにするんじゃない」
そこまで言われれば、さすがの母も黙った。
真郷は困惑しながらも、勇気を出して母に告げる。
「母さん。──俺もさ、いままでたくさん耐えたよ。本当は小さいとき、いつも傍にいてほしかった。学校から帰ったら、おかえりって迎えて欲しかった。でも、母さんは俺を見てくれなかったでしょう。だから俺も、母さんの傍には居られないんだよ。俺は母さんの一番になれないし、俺も母さんを一番にはできないから」
「真郷……」
「ごめん、母さん。──俺、もう行かないと。ちょっとみんなに挨拶したかっただけなんだ」
母の肩が震えていた。恐らく、これが最後の別離だ。
小夜子を連れ出したら、もうこの家にも、夜叉淵にも戻ってくる気はない。
祖母を見る。
祖母は小さく頷いた。
彼女もまた、真郷が戻ってくることを望んでいない。それはきっと、彼女なりの優しさなのだと思う。
「真郷、今日は御夜叉の日だ。神社には近寄るんじゃないよ」
「わかったよ、おばあちゃん」
神社は祭りの会場だ。もともとあの神社にはトラウマがあるので、真郷自身も近寄りたくなかった。
「──それじゃあ、お邪魔しました」
頭を下げると、真郷は母を振り返ることなく、深見家を後にした。



