祖母は険しい表情を崩さぬまま、しばらく沈黙していた。
その沈黙を破ったのは彼女自身でも、真郷でもない。
「真郷!」
奥の間から飛び出してきたのは、いつまでも少女のままのような、歳を重ねてなお美しい母であった。
「母さん……」
あれだけ嫌悪していても、やはり自分はこの母親の子供なのだ、と真郷は思った。
元気な姿を見ることができて、心がほっとしたのだ。
捨てるように置いて行ってしまった母。選んでやれなかった母。
実の母にそうせざるを得ないことが、どんなに虚しいか。
母は真郷を抱きしめて、その再会をたいそう喜んだ。
「お母さん、真郷にずっと会いたかったわ!あなた全然連絡も寄越さないのだもの。ああ、でも、すこし見ない間にこんなに立派になって──」
「くるしいよ、母さん」
母の香り。
他の男の匂いじゃない。
生まれた時から知っている、母の匂いだ──。
「真都、あなた今日は泊まっていくのでしょう?」
身体を離し、見つめてくる母に対し、真郷は眉を下げて苦笑した。
「ごめん母さん。今日は用が済んだらすぐに帰らないと……」
「そんな!今日はせっかくお祭りもあるのに」
母は泣きそうな顔をしたが、ぱっと何かを考え付いたように身をひるがえした。
「そうだわ!お父さんにはお母さんから連絡しておくから。それなら大丈夫でしょう?」
「え!?」
思いもよらない母の行動に、真郷はぎょっとした。
「お待ちなさい」
真郷よりも早く、母を制止したのは祖母だった。
「真郷にも都合があるんだろう。──もう子供ではないのだからね」
母はぴたりと立ち止まると、その美しい顔を歪めた。
「お母さんまで、そんな事を言うの?わたしと真郷を引き離そうとするの!?」
声を荒げる母に対し、祖母は冷静だった。



