山道と畦道を抜ければ、村一番のお屋敷である深見の家が見えてくる。自然と歩が速まり、真郷は懐かしい母の実家へとたどり着いた。
庭先に、見慣れた後姿がある。
「フミ子さん!」
そう呼びかけると、その人物はくるりと振り向いて、目を丸くした。すこし歳を重ねていたが、その優しげな雰囲気は昔と変わらない。
「あ、あなたは……」
「真郷です。久しぶりだね」
「まぁ、まあまあ!真郷ぼっちゃん!なんてまぁ、ご立派になって……」
「フミ子さんは変わらないね。元気そうで安心したよ」
自然と力が抜ける。フミ子は久しぶりの再会をとても喜んでくれた。
「奥様とお嬢様なら中にいらっしゃいます。お二人ともびっくりなさいますよ」
その言葉に後押しされ、真郷は屋敷の中に足を踏み入れた。
「ただいま」
そう声を掛けると、障子の向こうで人影が揺れた。
その人影は立ち上がるとこちらに近づき、障子戸を開けた。
「真郷……!」
いまだに凛とした威厳を放つ祖母が、そこに居た。
「お久しぶりです、おばあちゃん」
しかし、もう真郷が彼女に対して怯えることはない。しっかり祖母を見つめ返し、彼は微笑んだ。
「俺、戻ってきたんだ」
「おまえ、本当に──」
「うん。言ったでしょう。必ず戻ってくるって」



