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過去の思い出たちが蘇っては砕け散る。
それは、けしてもとには戻らないもの。
真郷が初めてプレゼントしてくれたクマのぬいぐるみを抱きしめる。
「真郷くん……」
最後に交わした約束だけを希望に、小夜子は日々を鬱々と過ごしていた。
真郷がこの村を出て行って、もう一年経つ。
その間に、小夜子の体に浮かんだオシルシが広がっていく。
最初、首だけに浮かんだそれは、病のようにじわりじわりと小夜子の体を覆っていくのだ。小夜子はそれが恐ろしかった。
隣町の高校に進学したものの、学費が足りないからと嘘をついて退学した。
入学してからいくらも通わないうちに、オシルシを隠すのが難しくなったからだ。もうずっと、病で床に臥せていると偽って部屋に篭っている。そうでもしなければ、だれかに見つかってしまう。
一方で、弟の夏哉は小夜子と同じように隣町の高校に通い始め、文武両道、村一の秀才として一目置かれるようになっていた。そんな夏哉は以前と変わらず姉の小夜子を大切にしていた。今では高校の近くでアルバイトを始め、父にかわって家庭を支えている。
そんな夏哉に頼りきりで申し訳ないという思いと、徐々に呪いに浸食されていく恐怖の狭間で、小夜子はおびえ続けた。
夏哉の協力で、なんとか村人にオシルシの出現を知られずに過ごしているが、そろそろ限界がくるはずだ。村人たちはすでに巫女の選出を急いでいる。
祭りは二年後なのだ。
その前に、巫女は禊に入らなくてはならない。それなのに、肝心のオシルシを持った者が現れない。
大人たちの疑心は次第に、姿を見せなくなった小夜子に向けられるようになった。
……そんなある日。



