幼少の頃から、彼は孤独だった。父は仕事で忙しく、母は父がいない間、真郷を置いてどこかへ出かけていた。
たまに夜叉淵村の母の実家である深見の家に遊びに来ていたが、よそ者に厳しいこの村では、真郷は常に〝よそ者〟として扱われ、祖父母からも冷たくされていた。だからこの村のことがあまり好きではなかった。
小夜子と出会ったのも、ちょうど深見家に母が帰省している最中だったのだろう。
母の浮気が発覚したのは、小学生の中学年にあがって暫くだ。
そのころには、母が見知らぬ男と頻繁に行動を共にするのを見かけるようになった。
不器用でまっすぐな父は、母の浮気に気づくことはなかった。真郷も、父に告げることはなかった。父の悲しむ顔を見たくなかったのだ。
そうして、ある事件が起こった。
真郷が学校から帰ってくると、玄関に見覚えのない男性用の靴があった。乱雑に脱ぎ散らかされたそれは、几帳面な父の物ではないことは明らかだった。
嫌な予感がして、真郷は母の部屋に向かった。
──寝室のドアが開いていた。



