しかしそんな彼女の思いとは逆に、真郷は小夜子の手を振り払った。驚いたのも束の間、真郷の顔を見て言葉を失う。
その表情は嫌悪そのものだった。
「ごめん……」
引き絞るように紡がれた言葉に、小夜子は震えあがった。今、自分は明らかに、真郷のタブーに触れたのだ。けして触れてはならない、禁断に。
「ご……ごめんなさい……私……」
身体が震えた。真郷に嫌われること、それは小夜子にとって死よりも恐ろしい、最大の恐怖だ。
「真郷くん……ごめんなさい、私が……お願い、嫌いにならないで……嫌いに……」
涙ぐむ小夜子に、真郷が慌てて首を振った。
「違うんだ、小夜子が悪いんじゃない。ごめん、俺、怖いんだよ。俺だって不安だけど、小夜子のことちゃんと大事にしたいんだ。だから今は──」
懐中電灯を元に戻し、辺りを照らすと、真郷は大きく息を吐いた。
「──ちょっと、昔話してもいいかな?」
小夜子がうなずくと、真郷は微笑んだ。
「ありがとう。人に話すのは初めてなんだ。でも、小夜子には全部話しておきたいから」
それから真郷は、今まで黙っていた自分の過去についてゆっくりと話してくれた。



